熊本大学 工学部土木建築学科 建築学教育プログラム 教授 川井 敬二 先生
30分のミニ講義を聴講しよう!子どもを育む建築音響設計
言語や聴覚の発達段階にある乳幼児にとって、音が響きすぎる空間では大人よりもずっと言葉を聞き取れないことは、あまり知られていません。保育園や幼稚園の室内での音の響きを調整して、健康な発育に適した音環境を創るための研究の取り組みを紹介します。
子どものための音の基準
音は壁を浸透する
建築音響でどれだけ聞きとりの結果がわかる
子どもを育む建築音響設計
先生からのメッセージ
夢ナビ講義も読んでみよう子どもを育む音響設計~建築音響による言葉の発達に適した空間づくり
子どもたちが一日の大半を過ごす保育室の環境騒がしい場所では、すぐ隣にいる人の声ですら聞き取りにくいことがあります。大人でもそうなのですから、言語習得の真っ最中である乳幼児にとって、言葉がはっきり聞こえない環境下で過ごすのは好ましくありません。 改善策は音響設計、すなわち音を吸収する吸音材を十分に施工して室内の響きを低減することですが、国内の保育施設の多くは吸音材が全く使われておらず、声や物音が反響し合い、室内の騒音は走行中の電車内よりも大きい80~90dB(デシベル)に達することがあります。これでは言語習得ばかりでなく、聴力や情操の発達にも悪影響を与えかねません。「音環境」に注目してこなかった日本の保育施設WHO(世界保健機関)は小学校および保育施設の室内騒音の許容値を35dB以下としており、アメリカやヨーロッパ主要国は、それに準じたルールを設けています。ところが日本の場合、「音環境」についてあまり注目されておらず、小・中学校に対して甘めの騒音基準が定められているだけで、保育園には音に関するルールがありません。そこで、日本建築学会に所属する建築音響の専門家が中心となって、保育施設における「音環境」の基準作りを開始しました。吸音材で、子どもたちの集中力がアップWHOによれば、声や物音の「残響」が0.6秒を超えると言葉が聞き取りにくくなりますが、保育室で音響対策を施さない場合、0.8~1秒の残響が確実に生じます。そのせいで言葉が聞き取りにくくなり、保育者や子どもたちはより大きな声を出し、それがまた部屋に響いて全体の音量が上がるという悪循環が起きてしまいます。 これについて、吸音の効果を実証する研究の取り組みが進んでいます。実際の保育室に吸音性のある繊維ボードを天井に仮設して、室内を「音が響かない空間」にする実験では、「吸音材あり」のグループはそうでないグループと比較して、3~5歳児の音節の認識率が10%ほど高く、言葉への集中度は20~30%も高いという結果が出ているのです。先生からのメッセージ
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