長野大学 環境ツーリズム学部環境ツーリズム学科 教授 高橋 一秋 先生
先生からのメッセージ
夢ナビ講義も読んでみようツキノワグマの意外な役割とは? ~ただの有害獣とは言わせない~
有害獣としてのツキノワグマ東北から四国の森林に生息するツキノワグマは、北海道に生息するヒグマよりも小型で、体長は100~180cm前後です。ヒグマは鮭などの魚や動物を主に食べますが、ツキノワグマは木の皮や果実など、植物を中心に食べます。しかし人間が育てた林業用の植栽木や農作物を食べたり、ときに人間を襲うこともあるため有害獣とされ、全国で年平均2千頭、多い年には約6千頭が捕殺されています。クマ棚と呼ばれる腰かけを作って果実を食べるただし、ツキノワグマは有害な働きばかりをしているわけではありません。果実を食べ、種子を糞と一緒にさまざまな場所に運ぶことで、植物の種子散布に貢献しています。 また、ツキノワグマはクマ棚という木の上に腰かけのようなものを作ります。彼らは冬眠に備えて大量の果実を食べますが、木を揺らしたり、落ちてくるのを待ったりするのではなく、7~10月の果実がなる時期に合わせて、サクラ類、クリ、ミズナラ、コナラなどの木に登ります。そして果実のついた枝を引き寄せながら折り、食べ終わった枝を自分のおしりの下に敷くという行動を繰り返し、結果的に腰かけのようなものができるのです。それが「クマ棚」です。クマ棚を利用する動植物クマ棚ができると、その場所に枝葉のない空間ができ、光が林の中に差し込みます。このように枝葉のない空間を「ギャップ」と呼びます。地域によってはクマ棚由来のギャップ効果は大きく、積算した面積は、木が枯れたり、台風などで倒れた場合にできる自然由来のギャップ面積の6倍ほどにもなります。クマ棚ギャップの下では、ヤマブドウ、サルナシなどの植物が育ちます。花が咲けば、その蜜や花粉を食べる昆虫類などが集まり、さらに果実がなれば、それを食べる鳥類や哺乳類も集まります。最近ではヤマネなどの小動物がクマ棚を棲みかのように使うこともわかってきました。ときに有害獣とされるツキノワグマですが、「生態系のエンジニア」として動植物に資源や棲みかを提供し、森林の維持・保全に貢献しているのです。先生からのメッセージ
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