大阪医科薬科大学 医学部 医学科 微生物学教室 教授 中野 隆史 先生

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病原微生物との上手な付き合い方!?
病気を起こす微生物すべてを撲滅するのは不可能です。では、私たちはどうすればいいのでしょう。安全な消毒法の開発や、ピロリ菌の発病メカニズムを解明する研究を紹介し、病原微生物とうまく付き合うという考え方「感染制御学」についてお話しします。
先生からのメッセージ
微生物学研究は、医学の中では一般にあまりなじみのないものかもしれません。ずっと研究室の中で顕微鏡をのぞいて研究をしているイメージでしょうか。しかし、微生物学研究には臨床の現場も非常に大事です。患者さんのそれぞれの苦痛や悩みを直接聞くことにより、なんとか病気を治したいという思いが新たな研究のモチベーションとなります。医療現場で日々実際に起こっていることを知り問題意識を持つことと、それを解決するための研究理論の両輪が組み合わさって初めて、明日への医学の進歩があるのです。
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ナノスケールの物質輸送システムが「ピロリ菌」退治の鍵を握る!?
想像以上に悪事を働く微生物・ピロリ菌
「ピロリ菌」、一度聞いたらその名前は忘れないでしょう。ピロリ菌は正式名を「ヘリコバクター・ピロリ」といい、これはピロリ菌に4~8本のシッポがあり、それをヘリコプターのように回転させて移動することから「ヘリコバクター」と命名されました。「ピロリ」はラテン語読みで、「幽門」という意味です。ピロリ菌の発見は1983年と新しく、胃の中にすみつく菌として有名です。ピロリ菌に感染すると、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍だけではなく、胃がんやMALTリンパ腫などの発生につながることが報告されています。
ピロリ菌が悪さをするメカニズムの解明が重要
ピロリ菌は、強酸性の胃の中に適応し、図太く生きています。日本では40歳以上の約70%の人がこの細菌に感染しているとされ、胃潰瘍の患者では感染率は90%にも及びます。胃潰瘍は一度よくなっても再発率の高い病気ですが、胃の中のピロリ菌を除去すれば再発率は大幅に減少します。しかし、薬を飲むのを途中でやめてしまうと、薬に対する耐性ができるなど、なかなか一筋縄ではいきません。そこでピロリ菌がどうやって悪さをするのか、そのメカニズムの究明が重要課題となっています。
ナノ輸送システムで毒素が運ばれる?
これまでの研究で、ピロリ菌から出る「注射針」のようなものが胃の粘膜にペタッとくっついて悪さを働く物質を注入し、疾患を起こすことがわかってきました。では、菌の中にある毒素は、どうやってその「注射針」のところに集まってくるのでしょう。約2~4マイクロメートルのピロリ菌の中の、繊維のレール状のものに有害物質の分子が乗って、「注射針」のところに運ばれるのではないかと考えられています。これは「ナノ輸送システム」と呼ばれるもので、ナノメートルの世界で行われる生体細胞内の物質輸送メカニズムです。これが解明できれば、悪さをする前に先手を打って病気予防ができます。ナノ世界の物流システムの研究が、胃の病気を画期的に減らすかもしれません。
先生からのメッセージ
微生物学研究は、医学の中では一般にあまりなじみのないものかもしれません。ずっと研究室の中で顕微鏡をのぞいて研究をしているイメージでしょうか。しかし、微生物学研究には臨床の現場も非常に大事です。患者さんのそれぞれの苦痛や悩みを直接聞くことにより、なんとか病気を治したいという思いが新たな研究のモチベーションとなります。医療現場で日々実際に起こっていることを知り問題意識を持つことと、それを解決するための研究理論の両輪が組み合わさって初めて、明日への医学の進歩があるのです。
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