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化学で解明する生体防御の分子機構
さまざまな病原体から身を守るために、多細胞生物は免疫系を発達させました。脊椎動物は、「自然免疫」と「獲得免疫」という精緻な二重の免疫機構を有しています。自然免疫の働きを中心に、分子レベルでの病原体に対する生体防御機構について紹介します。
先生からのメッセージ
私の研究室では、化学と生物学の境界領域、特に細胞の表面に結合している「糖鎖(とうさ)」について研究しています。また人間の免疫を活性化させる、バクテリアの表層に結合する糖鎖の仕組みも明らかにしようとしています。
これらの研究は生物学者、医学者との共同研究が欠かせません。研究には化学の知識が必須ですが、生物に関しては大学に入ってから学んでもじゅうぶん対応できます。高校での選択科目にかかわらず携わることができる分野ですので、興味を持ってがんばってチャレンジしてください。
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バクテリアから薬をつくる ~免疫をコントロールする糖鎖の話~
バクテリアや微生物から身体を守るには
私たちは、人体に害のあるバクテリアや微生物などから自身の身体をどのように守っているのでしょうか。
バクテリアや微生物は、それにしか存在しない糖鎖を持っています。糖鎖とは細胞の表面に生えている、ブドウ糖などの糖が鎖状につながった化合物です。一方、人間の細胞には「センサータンパク質」があり、バクテリアや微生物の糖鎖を異物として認識します。そこから細胞にシグナルを出して免疫を活性化したり、炎症を起こしたりして身体を守っているのです。
効果的で安全なワクチンをつくる
このメカニズムを逆手に取って、免疫が原因で起こる病気の治療に生かそうという研究があります。バクテリアや微生物が持つ糖鎖を使って、人間の免疫を強めようというのです。
例えば子宮頸がんワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン)には、「アジュバント」という免疫を強める物質が入っています。これはバクテリアの糖鎖からできた分子を毒性がないように再設計してつくられたものです。糖鎖の構造を特定し、薬として分子を生産するときに構造を少し変え、人間に役立つワクチンに使っているのです。
世界が注目する免疫研究のカギになる糖鎖
バクテリアや微生物が人間の免疫を高める化合物を持っていることは、19世紀末から20世紀の中ごろにかけて知られるようになりましたが、そのメカニズムが詳しくわかったのは、1990年ごろからです。このメカニズムは自然免疫と呼ばれ、フランスのホフマン博士とアメリカのボイトラー博士は、センサータンパク質を見つけ、自然免疫研究を発展させた功績で、2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
免疫の機能は、センサータンパク質の働きを通じて体内に網の目のように張り巡らされており、そのバランスが崩れるとアレルギーや自己免疫疾患、がん、歯周病、動脈硬化などさまざまな病気を引き起こします。つまり、免疫をコントロールできるバクテリアや微生物の糖鎖の構造がわかれば、病気の予防や治療、薬の開発は飛躍的に進むのです。
先生からのメッセージ
私の研究室では、化学と生物学の境界領域、特に細胞の表面に結合している「糖鎖(とうさ)」について研究しています。また人間の免疫を活性化させる、バクテリアの表層に結合する糖鎖の仕組みも明らかにしようとしています。
これらの研究は生物学者、医学者との共同研究が欠かせません。研究には化学の知識が必須ですが、生物に関しては大学に入ってから学んでもじゅうぶん対応できます。高校での選択科目にかかわらず携わることができる分野ですので、興味を持ってがんばってチャレンジしてください。
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大阪大学
理学部 化学科
教授 深瀬 浩一 先生